仙洞御所
京都府京都市上京区京都御苑三島由紀夫「仙洞御所」からの抜粋
特定の季節を除いて、御所の拝観は誰にも許されるものではないから、私はこの、現代から護られた特権的な、又、逆説的な静寂の場へ、一歩一歩近づきつつあるのを感じた。といふのは、一定の空間、一定の時間にわたる静寂を得るには、実に煩雑な手続きを要するのが現代だからである。静寂は、今では蝶の一過のやうに、すぐ捕えなければ忽ち飛び去ってしまふ一瞬のものになつた。(中略) それにしても仙洞御所はすでに焼亡し、そこに住んでをられる方はない。美しい庭だけが、ただまれ人に見られるために、しじふ身じまひをして、黙然と座ってゐる。美しい老いた狂女のように。