“木彫りの聖地”井波で取り戻す心の平穏
富山“木彫りの聖地”井波で取り戻す心の平穏
富山県南砺市に「井波[いなみ]」という町があります。 ここは今を遡ること600年以上も前の1390(明徳元)年、真宗大谷派の古刹「瑞泉寺[ずいせんじ]」が建立されたのを機に誕生した町です。 瑞泉寺は明治時代初期に火災で伽藍のほとんどを焼失しますが、1885(明治18)年に多くの宮大工や彫刻師の手で再建されました。 その際、京都から招いた彫刻師の教えを受けた宮大工たちが技術を受け継ぎ、今に伝わる「井波彫刻」へと進化させます。 井波の彫刻師たちは昭和に入ってからも京都の東本願寺や東京の築地本願寺、日光東照宮といった寺社の彫刻を数多く手がけます。 その一方で一般住宅の欄間や置物などの彫刻も盛んになり、現在では民家の室内彫刻が主流となりました。 井波の町には今でも300人近い彫刻師が居住し、住宅欄間や獅子頭、置物、パネルといった木彫刻品を製作しています。
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瑞泉寺の門前から伸びる石畳の通りです。 両側には井波美術館や彫刻店、郷土玩具店、造酒屋、格子戸のある町家などが軒を連ねています。 また、木製の行灯[あんどん]や欄干、バス標識などが“木彫りの聖地”としての雰囲気を演出しています。 建物の軒先には世帯主の干支を彫った木彫りの像が掲げられています。
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「井波彫刻」の粋を堪能するならココ。 デザインはイギリス人建築家のピーター・ソルターが、瑞泉寺の伽藍配置をモデルに設計したもの。 中庭から展示室に差し込む日差しが陰翳のコントラストを描き、数多く取り入れられた日本的な素材や構造と相まって、まるでお寺の中にいるような雰囲気が漂います。
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美術館ではないので展示品は購入可能
館内には住宅用の欄間や衝立て、置き物や獅子頭など200点以上の木彫刻品が展示されています。 また、展示品は商品でもあり、普通に購入できます。
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「井波彫刻」を実際に体験できる施設です。 木に彫刻する作業を見学するなら「匠工房」。 実際に彫刻してみるなら「くりえ〜と工房」。 お腹が空いたら食堂の「きつつき倶楽部」へ。 井波の民話や自然を映像で体感するなら「不思議劇場」。 お土産を買うなら「なんと楽市」があります。 さらに日帰り入浴施設「ゆら湯ら」も併設。 1日ここで遊んで過ごせるかも知れません。
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井波は“木彫の聖地”だけあって、芸術家が数多く集う“美術の街”でもあります。 ここ井波美術館は、そうした作家たち自身の手で運営されている「館同人」美術館。 開館は1987(昭和62)年と、まだ30年ほどしか経っていませんが、その割に建物は風格があります。 それもそのはず、元は1924(大正13)年竣工の北陸銀行井波支店だった建物。 既に大正期これだけの建物を構える銀行が存在したことからも、井波の街が持つ歴史の奥深さが感じられます。
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40人ほどの作家が書や版画、漆芸などの作品を展示
館内には木彫刻はもとより版画、漆芸、書など、約40名の作家の作品が展示されています。 館同人が運営しているので、他の美術館のように所蔵品を特に抱えているわけでありません。 同人の最近作を年2~3回入れ替えることで常設展にしています。
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よいとこ井波は「まちの駅」です。 地域の情報ステーションであり、地域住民と旅人の出会いと交流を導く施設。 館内のコミュニティ・スペースでは様々なアート・イベントが開催されたりしています。
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池波正太郎ふれあい館
「鬼平犯科帳」「剣客商売」「仕掛人藤枝梅安」などの作品で知られる時代小説作家、池波正太郎に関する展示スペースが併設されています。 池波正太郎にとって井波は「父祖の地」であり、生前に幾度か訪れています。 館内には書簡や自筆絵画、色紙、写真などのほか、著書本や愛用品などが展示されています。
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地元の台所 季味の庵
併設されている食事処です。 昼はランチ、夜は居酒屋メニューが充実と、まさに「二毛作」食堂。 地元庄川で獲れた鮎や岩魚などの食材と地酒のマリアージュは最強かも!?
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元は加越能鉄道加越線の井波駅舎で、1934(昭和9)年に竣工しました。 72(同47)年に加越線が廃止されると2年後の77(同52)年に移転、改修されて物産展示館に。 1996(平成8)年、文化庁により登録有形文化財に指定されました。 加越線の廃線跡は富山県に買い上げられ、現在ほぼ全線が自転車専用道路に整備されています。 あいの風とやま鉄道石動駅から井波を経由して砺波市庄川まで、加越線の廃線跡をサイクリングできます。
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建物は飛騨から運ばれた総ヒノキ造り
設計施工は地元で社寺建築を多く手がけた松井角平。 中央に楼閣と千鳥破風を持つ複雑な屋根と、欄間の彫刻や蟇股を用いた細部など仏閣風のデザインが特徴です。
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井波の心臓とも云うべき瑞泉寺。 ここから「木彫刻」の伝統が生まれました。 伽藍の随所に施された木彫の数々は、まさに“木彫りの聖地”の中心地としての存在感を見せつけているようです。
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“俳聖”松尾芭蕉にまつわる史跡が、浄蓮寺の境内にあります。 芭蕉の門弟だった瑞泉寺11代の浪化上人が、芭蕉の墓から持ち帰った3個の小石を基に建てた「翁塚」。 伊賀上野の故郷塚、義仲寺の本廟とともに「芭蕉三塚」と言われています。
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黒髪庵
その2年後には芭蕉の遺髪も納められ「黒髪庵」が建てられました。 越中・加賀・能登に住む俳人数百人の寄進により建てられたもの。 茅葺きの芭蕉堂では俳句の会や茶会が催されています。
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